未来の風景

Takamichi Saito
6 min readOct 1, 2019

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“Whoever becomes the leader in this sphere will become the ruler of the world.”

(著者抄訳)

「この分野(人工知能の分野)でリーダーになる者が世界の支配者となるであろう。」

プーチン露大統領が、2年前、2017年9月1日に述べた言葉です。

さて、米国国防関連研究開発予算を2013年から2017年までの間でみると、AIや次世代計算機の研究開発に$1.76B使っているそうなのですが、AI関連はその4年で増加しています[1]。

新しいデータを見てみると、米国国防AI関連研究開発予算である、JAIC (Joint Artificial Intelligence Center) とProject Maven(画像認識の有名な米国AIプロジェクト)の予算を合わせて、2020年度は$927M(約930億円)だそうです[2]。

2017年の時点で、深層学習関連に$158.3M機械学習関連に$154.4Mコンピュータビジョンに $395.4Mで、合計約$708Mなので[1]、この2年を見ても、米国国防AI関連研究開発予算は、おそらく、約$219M(約220億円)増加しているようです。

さて、少し古いかも知れませんが、アメリカ議会調査局が2018年に出したレポート[3]によると、おおよそ以下のエリアに開発の対象が分かれているようでした。
それぞれ、事例も併せて書きましたが、少し古いかもしれません。

  • Intelligence, Surveillance, and Reconnaissance (ISR)
    Project Maven: インテリジェンス処理機能の自動化[4]
  • Logistics
    - ALIS: 戦闘機の統合運用支援システム
    - 故障予知システム:航空機が故障する時期を予測
  • Command and Control
    マルチドメインコマンドアンドコントロール(MDC2: multidomain command and control):航空、宇宙、サイバー空間、海、および基地
  • Autonomous Vehicles
    Loyal Wingman: ジャミングや追加の武器の搭載による電子的な脅威への対応など、有人機支援
  • Lethal Autonomous Weapon Systems (LAWS)
    LAWS: ターゲットを個別に識別し、搭載された武器システムを使用して、人間の介入なしに交戦し破壊する自動殺傷兵器
    (こちらについては以前書いた記事もご参照ください)
  • Cyberspace
    過去の方法を単純に観察するのではなく、進化・防御へ対応するサイバー攻撃からの防御

ロジスティック(兵站)や故障予知ではすでに成果を上げており、今後は、意思決定支援などでの開発を目指している印象です。
たとえば、最近の記事[7]によると、膨大な情報を、人間がより包括的に把握できるようにする、以下のような支援システムなども研究の対象としているようです。

インド太平洋司令部では、人工知能を使用して、収集、構造化、および分析できるすべての公開情報に基づいて、司令官が現場横断で起こっていることをよりよく把握できるようにします。

良し悪しは別としても、これだけの予算と明確なゴールがあると技術の進歩も見込めそうです。

個人的に興味深いのは、米国議会・政府が、AI政策の調整役を担っていることです。

次は、デービッド・サンガーの書籍[5]にあった一節です。

「国防総省の戦闘機装備の調達に問題があることを示す典型例だった。「軍事基準」を満たしていることを確かめる性能試験に何年もかかるせいで、1970年代の技術で設計されたシステムがなかなか更新できず、試験が終わる頃には時代遅れになってしまう。「そういうわけで、我々は五十年物の空母を保有し、三十年物のソフトウエアで動かしている」

このような「民間のAI製品・サービスを国防調達する上での課題」や、これ以外にも「民間部門でも利用できるAI技術に国防開発予算をつぎ込むのことは税金の無駄遣いである」という指摘など、AIの技術開発を促進する上での障壁を洗い出しを率先します。
さらに、倫理透明性といったAI技術において今後課題となることについても向かい合って、議会・政府は政策を通してどのように対処していくべきかが議論され、(まぁ、上手く行くことばかりではないのでしょうけど)政策が策定・実施さています。

いくら米国とは言え、バラバラと個別の技術政策が並走しているようでは、リソースがいくらあっても足りない訳ですから、最上流での政策調整は、基本にして重要なミッションだと思います。

さて、共同通信社の集計によると、AI関連の支出は2018年度の日本政府の予算案で約770億円($720M)だったそうです(最終確定かは不明)。
これは、日本の防衛装備の予算ではなくて、国全体のAI関連予算です。
米国政府の予算は5000億円、中国政府の予算は4500億円を見込んでるとのこと[6]でした。

色々な意味で、未来の風景はだいぶ変わっているのではないでしょうか。

2019/10/01

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Takamichi Saito
Takamichi Saito

Written by Takamichi Saito

明治大学理工学部、博士(工学)、明治大学サイバーセキュリティ研究所所長。専門は、ブラウザーフィンガープリント技術、サイバーアトリビューション技術、サイバーセキュリティ全般。人工知能技術の実践活用。著書:マスタリングTCP/IP情報セキュリティ編(第二版)、監訳:プロフェッショナルSSL/TLS