オンライン授業
はじめに
政府の非常事態宣言が未だ続いている現在(2020/05/08)ですが、少し前から教育機関でのオンライン授業のニュースを目にすることが増えてきました。
オンラインミーティング自体はすでに普及していると思いますが、大学を含めた日本の教育機関は、「提供する側」も「授業を受ける側・聴く側」も慣れておらず手探り状態というのが実情かもしれません。
明治大学でも、昨日(2020/05/07)からオンラインでの授業がスタートしました。
私の所属する理工学部情報科学科にて、外部から講師を招いて講演を聞くタイプの「特別講義」という授業があります。
今回、その特別講義において、マイクロソフト社の畠山 大有氏にオンラインで授業をして頂きました。
COVID-19発生以降、オンライン授業自体、すでに事例はいくつもあるとは思いますが、せっかくなので、こちらの実施についてを共有させて頂きたい思います。
私自身、オンラインのセミナーの講師は先日体験していたのですが、、オンライン授業、また、外部の方を招いて授業の中でオンラインで講演頂くのは、初めてだったので、ドキドキしながらやってみました。
終わってみたら、あっという間の100分間で、通常の授業よりよかったのではないかと思います。もちろん、講師の畠山さんが素晴らしかったことが大きい訳ですが。
事前準備
元々は、物理的にお越し頂く前提で、畠山さんにはお願いしていたのですが、先月、本学の大本営からオンラインで授業を実施するように急遽通知されまして、オンライン授業の開始日の関係から、私齋藤が特別講義の1回目の担当となりました。
特別講義の初回というのもあり私自身が少し不安でしたので、畠山さんにお時間を頂き、事前に簡単に打ち合わせをしました。
授業当日は、(マイクロソフト所属なのでTeamsを利用せずで失礼でしたが)本学大本営から提供されているZoomを使うこと、質疑応答には、畠山さんからの提案でsli.doを使うことなど、実施する上でお互い確認すべきことを確認しました。
事前の打ち合わせの場で話題になったのですが、オンライン授業でのトークは会議とは違って「内容を伝えるだけ」ではないと思いますので、その辺りを熟知している畠山さんから、色々と教えて貰いました。
「Zoomへのアクセス方法」の学生への通知は明治大学の学生用LMS(学習管理システム)を用いて配布することにしたので「Zoom乱入」の可能性は低いと思っていましたが、不測の事態に備えて、授業中確認できるように、参加者の名前に学生番号をつけてもらうように事前にお願いしました。
今回、講演資料は公開前提で作成して貰え、本学の学生ポータルやTwitter経由でslideshareで共有ができていたので、学生も資料へのアクセスも容易だったと思います。
質疑応答用のsli.doへのアクセス方法も本学のLMSとZoomのチャット経由で展開しました。
オンラインでのツール関連の利用は、元々オンラインでのセミナーに慣れている畠山さんだから、ホストの私へのの負担がなくできたのだと思います。
実施状況
- 参加人数:111名(スタートした時点で107名)+講師の畠山さん
- オンライン会議ソフト:Zoom(ミーティング)有料版
- 講演スライドの配布:学内LMSとslideshare
- 運用形態:事前にZoomのパスワードとリンクを大学LMSと通して配布して、待機室機能を用いて、一人一人を確認しながら入室。ホストは担当教員の齋藤、講師の畠山さんはゲストの一人として学生と区別しないで招待。学生には、カメラ・マイクは停止するようにお願いした
- 質疑応答:sli.do。匿名で質問が可能。講師の畠山さんが、一つずつピックアップして答える
- 補足:中本営からZoomでの大規模授業は非推奨という謎ルールが通知されていたので、原則スライドを提供がメインで、講演自体は補完的という建前論で実施
講演の概要
講演の冒頭での「今、社会の変化が早くなっている。例えば、世界的企業の時価総額の成長スピード、新しい技術の台頭とそれ低価格化・普及などがある。その一方で、変わらないものもある。その辺りを見極めつつ変化に順応していくことが重要である」と言った考え方を中心に、最近の技術についてを紹介をされました。
強化学習を用いた「自立型システム」の例として、カートポール制御のプログラムがたった13行で、制御できるようになる例が紹介されました。
さらに、その場での即興でのデモとして、マイクロソフトの「画家判定のエンジン」を使った写真の判定システムを作り、ピカソ、レンブラント、ボーロックの写真総数19枚を判定させ、精度(precision、recallなど)を計算するものが提示されました。こちらは、「プログラムコードを書かないで、マウス操作だけでできるのがポイント」です。
「プログラミングテクニックも重要だが、今後はどういう機能モジュールを組み合わせるのか、さらに、どのようなデータ取得するのか?」がポイントとなるだろうとのことでした。人工知能時代に重要なデータの取得も、「壊れる・制限の多いリアル世界」ではなく、クラウド上のシミュレータの中での実験に移行していることも紹介されました。
その他、Edgeコンピュータの話とか、ガラスのストレージの話とか盛り沢山で最新事例が紹介されました。
また、技術発展とは別に、「『ケンタッキー州での結婚率』と『船での死亡率』の相関性」という統計の誤謬の例を示し、「統計的には関連性があるけど、、、実際には関係ないという事例」を通し、最後は人間が判断しないといけないという、技術を使う者としての考え方をお聞かせ頂きました。(機械化が進む時代、こういうの大事ですよね。)
他にも、(学生が)基礎的なことを勉強することの重要性を、ご自身の体験から説かれ、特に、質疑応答の際、「(コンピュータサイエンスの)基礎が大事。基礎のない人は応用が効かない。特に、最近のビジネスの現場では、答えがないので、基礎がないといけない」との言葉は学生にも響いたのではないかと思います。
質疑応答の時間は、質問が絶えませんでした。
学生からの感想
- 様々な新しい技術を紹介していただき,社会人になったあとも勉強をし続けることの重要性を再確認することができました.そのために,まずは基礎勉強をしっかりとしていこうと思いました.
- これからの時代はデータが重要視されることがわかった。しかし、まだ今の段階ではそれらを適切に扱える専門家というのは少ないので、情報科学科という、それらを専門的に扱える我々が次の時代を引っ張っていかなければいけないと思った。
今の時代は技術の進歩により、いつでも多くの人と繋がることができる。その時代に合わせて、多くの人と繋がるようにし、学習の仕方も変えて行くことが必要であると感じた。
齋藤がオンライン授業で気になった点
- (本学大本営から配布された)Zoom(ミーティング)は、画面共有を特定の講演者だけに限定できない
- 待合室機能を使う時、後から入室してくる学生、途中で切断したと思われる学生の再入室を見ていないといけない。特に一人一人を確認しながらだと、教員一人での対応は辛いか
- Zoom(ミーティング)だと、カメラを勝手にオンにしてくる学生がいて手動でミュートにした(講演者だけに限定できない)
- 学生の本人確認の方法(名前に学生番号をつけるように言ったが当初7割の学生しか実施していなかった)
- 講師のパッションは大事。約100分間、講師はPCのディスプレイに向かって独り言を言わないといけないのですが、音声がメインなので、話し方次第で授業が決まるということでしょうね。(畠山さんもすごいパッションでした。ラジオのパーソナリティとかもすごい!)
- 本学科の学生は大丈夫ですが、Zoomのセキュリティが一般メディアでも話題になったので、Zoomを使うことへの抵抗感がある人がいるとの話も聞いております。逆に、(今回のオンライン授業とは関係ないですが)この手のツールのセキュリティリスク・システムリスクを気にしない方・言っても伝わらない方もいて、まだまだナレッジ共有が足りていないなぁと思いました
- 本学のLMSが、授業開始の昨日から負荷が上がり、動作が不安な状況でした。ドキドキしていましたが幸い大きなトラブルにはならなかったようです。「いざという時に使えるシステム」を安定運用するのは難しい訳ですが、授業をする側からすると、代替手段はいくつか用意していた方が良いのかなぁと思いました
さいごに
今回、特別講義でホストする私にとってラッキーだったのは、畠山さんがオンラインでの講演に慣れていたので、不測の自体もほぼ彼の想定内であるので、結構楽をさせて頂けたと思っています。初めて教壇に立つとか、慣れていない方だと、トラブルがあったときに失礼となりますからね。
いずれにせよ、今後はCOVID-19の先行きとは別にある程度オンラインでの授業が普及していくのだと思います。その意味でも(講演の内容とも被りますが)我々は変化する社会に適用していかないといけない、変化するための能力を身につけないといけないということでしょうか。
最後に、今回貴重な講演を頂いたマイクロソフト社の畠山 大有氏には、記して感謝いたします。ありがとうございました。
2020/05/08
p.s. (2020/05/15追記)
2020年4月に、私たちの研究室で実施した、オンラインでの技術調査の発表会を実施しました。その様子をまとめた記事はこちらになります。謎研究室とありますが、明治大学理工学部情報科学科の情報セキュリティ研究室での発表会の内容です。