オリンピック・ゲームズ作戦にみる、ゲームチェンジ

Takamichi Saito
3 min readJul 27, 2019

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このイランに対する作戦(オリンピック・ゲームズ作戦)は、イスラエルが今後どのように自らを守るべきかを示すモデルケース

報復や衝突の拡大、国際社会の非難を招くやり方で軍事力を誇示する時代は終わった。

これは、『世界の覇権が一気に変わる サイバー完全兵器』(デービッド・サンガー)に記された、モサドのメイル・ダガン元長官のセリフです。

オリンピック・ゲームズ作戦とは、2010年ごろに報告されたマルウェアの一種であるスタックスネットを用いた、イランの核施設へのサイバー攻撃のことです。
一般的な推計によれば、イランは約1000基の遠心分離機を失ったとされています。この事件自体の詳細は、今やたくさんのメディアで読むことができるので、ここでは割愛します。

この事件、「サイバー攻撃による物理破壊」の面が強調されたようですが、実際のところはそこがポイントなのでなく、「当時のネタニヤフ首相らに施設の空爆を思いとどまらせる手段」であり、「イランの核開発を後退させる手段」だった、とされております。

通常、攻撃とは相手側に被害を大きくすることを狙っているのだと思いますが、ここでのサイバー攻撃は「相手側の報復」や「イランの施設の隠蔽化」などをトリガーさせないことを狙っていることが最大の特徴と言えるでしょう。その点が、画期的なことでした。

実際、オリンピック・ゲームズ作戦が明るみになり、それを知った各国は倣いました。同書にも、その記述があります。

いまやいくつもの国が、敵国を破壊することではなく、困らせ、行動を遅らせ、体制を弱体化させ、国民に怒りと混乱をもたらすために、そうした「抑制的」なサイバー攻撃を日々仕掛けている。そして、サイバー攻撃のほぼすべてが、報復を招く寸前のぎりぎりの水準で実施される。

サイバー攻撃は、その隠密性や攻撃側負担の低さから世論からの批難も受けにくく、国際法上の位置付けも不明確である故に国家間での批判もし難く、究極的には個人行為として国の責任を逃れられる、新しい軸のツールと言えます。

「閾値」を超えないように、継続的に、効果的に、そして低コストで実施できる外交業界におけるゲームチャンジャーなのでしょう。

過去外交戦略の究極形を核兵器とするのであれば、実施することに躊躇の必要のないツールとして、サイバー攻撃が新たに加わったのではないでしょうか。同書にも以下のような記述がありました。

アメリカ大統領に必要なのは、外交を支えられる、より強制力のある手段だった。核兵器はそうした目的では役に立たない。敵は、アメリカの生存そのものを脅かさない限り、アメリカ大統領は核兵器に手を伸ばさないと思っていた。

そして、サイバー攻撃は、同書にも以下のような記述にもあるように、従来の「平時」において効果する究極のツールを形付けていくのだと思います。

サイバー兵器によって平時に強制力を行使する能力は、戦時に敵に損害を与える能力よりも重要だった。

さて、私ごときが国際政治を語るつもりは毛頭ないのですが、某国のサイバー談義、技術論が先行してるようにも見えます。

某国内のアレやコレやが、一連の外交政策だとしたら、、、どうしましょうか、お代官様。

サイバーインシデントを自然災害や交通事故か何かと勘違いされていませんよね?

2019/07/27

P.S.『世界の覇権が一気に変わる サイバー完全兵器』(デービッド・サンガー)おススメです。ぜひ、ご一読を。

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Takamichi Saito
Takamichi Saito

Written by Takamichi Saito

明治大学理工学部、博士(工学)、明治大学サイバーセキュリティ研究所所長。専門は、ブラウザーフィンガープリント技術、サイバーアトリビューション技術、サイバーセキュリティ全般。人工知能技術の実践活用。著書:マスタリングTCP/IP情報セキュリティ編(第二版)、監訳:プロフェッショナルSSL/TLS