EMI研修に行ってきた
2019/3/11から2019/3/15の5日間、学内のFD(大学教員の能力開発)の一環としてEMI(教授言語としての英語)研修を受けてきましたので、そのご報告です。
背景
この数年、日本だけではないのかもしれませんが、大学・大学院において、いわゆる国際化が一般化してきました。
たとえば、他国からの学生を受け入れることや、逆に、自国の学生に海外での教育を受けさせる機会を提供することや、異文化で交流機会を増やそうという施策です。
その手の施策への批判もたくさんあるのは承知していますが、そのあたりの話は一旦置いておくとして、一部の大学ではすでに、イングリッシュコース(一般・専門科目を英語のみで受講し卒業できる制度)を持っており、私の所属する大学でもその対応のため、一般教員が自身の講義を英語で実施するようになってきております。
欧米で専門教育を受けた先生方(自分はその経験はない)でも、「教授言語としての英語(EMI)」を用いた講義(以降、EMI講義と呼びます)の実施となると、、国際会議などで自身の研究内容を発表するのとは訳が違い、手探りで行うのは難しいのが実際のところではないかと思います。
そのような訳で、「EMI講義の方法」を大学教員に学ばせるエキスパートの方々に、EMI講義の実施法についてをトレーニングしてもらう研修(以降、EMI研修と呼びます)が国内の大学で増えてきたようです。
本学でも、数年前より、カリフォルニア大学アーバイン校のEMI研修のエキスパートの方々に日本に来てもらって、本学の教員向けに研修しており、今回、私は5日間(月曜〜金曜)朝の9時から5時半までのEMI研修を受けました。
EMI研修でなにしたの?
基本的には、留学生や英語がネイティブでない日本人学生に対して、EMI講義の実践方法に関することを広範に学びます。結構たくさんのことが取り上げられました。細かく書いちゃうのはまずそうなので、おおよそのトピックを示しておきます。
- EMI講義の考え方
- どのようなことに注意を払ってはなにを目指して講義を進めるのか
- アクティブラーニング・反転授業の実施方法
- 学生の講義への巻き込み方
- シラバスの書き方
- 講義中の教員側の態度・スタンス
たくさんすぎて、聞くだけの講義であれば、すぐに忘れてしまうでしょう。。しかし、そこは「効果的な教授法」を教える研修なので、EMI研修の講師(以降、EMIインストラクターと呼びます)がたくさんの工夫をしています。
たとえば、参加者が習得できるように何度もグループディスカッションやグループワークを通しながら、知識を定着させ、限られた時間での実践を通した学習が設計されていました。
初日に、EMI研修に参加した本学の教員たちが、自分の専門科目の模擬講義を個別に行いました。その様子を別の教員達が観察し、発表内容や講義の進め方などを、レビューしてメモを当人に渡します。模擬講義後、講義した当人はEMIインストラクター達と別室に行って、自分の講義についての振り返りをします。また、最終日までにどこをどのように直したいかなどのディスカッションをします。
実は、講義の様子はビデオに撮られており、翌日にデータを渡され、3日目までにそれを観て、改善点を考えてくるように言われます。
これが結構辛かったです(笑)
自分は大学でのキャリアは20年位あるのですが、自分の講義しているところは写真でもみたことがなく、下手な英語でとは言え結構残念な講義をしており、直視できなかったです。
最終日に、再度、模擬講義をしました。各自の模擬講義の後、EMIインストラクターと講義した当人以外の教員が、学習してきたテクニックをどのように使ったのかを確認しました。
それがどのような効果をもたらすのかを、フロアから意見を聴きつつ、テクニックの定着を計ります。実によく考え抜かれている研修でした。
感想と将来EMI研修を受ける先生へ
EMI研修期間中、昔ながらの理系の米国教授の講義が「ダメな講義」の例として紹介されました。
その教授は、埃をかぶった教科書に息を吹きかけ埃を払い、面倒臭そうに教科書を開き、ようやく講義を始めたと思ったら、やる気のなさそうにモソモソと喋り、なにを話しているのかは聞き取りにくい。話しているときも一切学生の方は見ないで一方的に喋り続けます。
講義の途中で、何かを説明しようとOHP(透明のスライドに光を当ててスライドの文字などをスクリーンに投影する昔のプレゼン装置)を操作始めるも、使い方を忘れてしまったようで、講義中にもかかわらず、1人悪戦苦闘しつつ諦めて、黒板になにかを書き始めます。
ところが、その教授は、書いた文章を書いた横から消していくという荒技を繰り出します。
自分の学生時代この手の「伝統的な講義」ばかり受けてきたので、あまりに「よく見た光景」だと、他の先生達より受けまくりました。
EMI講義で推奨される講義、言わば、「先進的な講義」スタイルは学生を講義に参加させることを求めるので、比較的シャイな理科系の学生は逆に、昔ながらの講義の方が心地よいかもしれません。先生が頻繁に学生に意見を求め、自分の周りにいる学生とディスカッションをさせながら、講義を進めるので、講義中に寝てたり、ぼーっとしていることができなくなる訳ですので、学生達にもかなり負担?が掛かります。
EMI研修ではツールを使うなどして学生に負担を掛けずに講義にコミットさせるなどの工夫を教えてはくれますが、正直、日本の理科系の学部では、伝統的講義をする方が相互利益かもしれません。
が、今回自分自身が「先進的な講義」スタイルのEMI研修を通して得たものも大きかったと感じたことも事実なので、「伝統的な講義」スタイルよりは学習効果は高いし、学ぶ意欲がある学生にとっては、満足感が高いのかなぁと思いました。
最近の教育行政は、教壇にちょこっと立ったくらいで教育論を語る有識者なのか、上の方のだれかの思いつきに振り回されるようなことが多い気がしますが、今回、EMIインストラクターの能力と熱意のお陰で、自分の受けたEMI研修はとっても良いもので、得るものも大きかったと思いました。
EMI研修の受講を迷う先生がいらっしゃったら、受講してみると、スキルアップだけでなく、よい影響を受けられると思います。ちなみに、研修中は日本人同士の会話も全部英語なので、その前提です。
最後に、有意義な研修をしてくれたクリスとマーラに御礼を申し上げます。また、この機会を提供してくれた本学にも感謝します。
終わってしまえばあっという間の5日間、苦労を共にした同僚の先生達にもありがとう。
2019年3月16日 齋藤孝道