AIエコシステムの実践:Microsoft Learn — University Partnership 編
はじまり
2019年8月の暑い夏の日に、以下のようなメールが私に届きました。
My name is ***** ******. I am working in Microsoft Cloud + AI Group as a Regional Program Manager. My Group is part of Microsoft Co., and most of my team members are based in our Headquarters in Redmond, U.S.A. I am locating in Asia as a remote team member to supporting Asia-Pacific markets, including Japan.
I am originally from Taiwan, and very nice to know you!
Microsoft has just launched a new site few months ago — Microsoft Learn (https://docs.microsoft.com/ja-jp/learn/browse/).
It contains online courses related to Cloud Computing, Big Data … etc.
And we are exploring the partnership opportunities with universities in Japan.
The main purpose of the partnership is to offer the University Professors to use the content in Microsoft Learn in their teaching, and we will collect feedbacks from students after they have used the content for learning. (so that we can make improvement)
(後からわかったのですが)これは、Microsoft Learn — University Partnershipというマイクロソフト社(以下、MS社)のUniversity Partnershipプログラム(以下、UPプログラム)と呼ばれるものでした。学生向けにはStudent Partners という制度も用意されているようです。
我々の情報セキュリティ研究室では、学生たちが自分たちの研究を行うために「道具」として、クラウドサービス(Azure、AWS、GCPなど)を使用しています。
また、機械学習、特に、深層学習技術も、以前の記事(AIエコシステムの実践:道半ば編)にも書きましたが、研究を遂行する上で「道具」として使っております。
この「道具として使う」というところでポイントで、「道具のお勉強」に時間と労力を使い切る訳にはいかないので、いかに効率的に基礎的なところをキャッチアップして貰うか、特に、研究室に配属されたばかりの学部3年生にキャッチアップして貰うかに、教員として腐心しております。
このような背景もあったので、「なぜ自分?自分のメールアドレス知ったの?」などと言った疑問(笑)もありつつも、飛びついてみることにしました。
学習コンテンツの概要
さて、学習コンテンツについてです。
どのようなトピックがあるのか、どれくらいの数のトピックがあるのか、詳細は、こちらのページより、ご自身で確認してもらえればと思います。
例えば、クラウド技術に関しては、「Azure の基礎」から「Docker を使用してWeb アプリケーション構築」など、かなり密度の濃い、解像度の高い内容です。
また、機械学習については、「Python とAzure Notebooks での機械学習の概要」という基本から、「気候データの分析」など、ほぼ0から学習するには充実した内容です。
しかし、世界のMS社が提供するコンテンツの素晴らしいのは、これらを、実際にハンズオンで試しながら学べるということです。一度でも自分で、クラウド技術・機械学習を勉強したことがある人はわかるのですが、クラウド技術・機械学習を学ぶには、実際にそれらを学ぶためのシステム環境を用意しないといけないという罠があります。
当たり前と言えば当たり前なのですが、クラウド技術・機械学習を学ぶ環境を用意することは、初学者や教育関係者には実は最も大きな壁になります。
そこで、MS社のこの学習システムでは、クラウド技術・機械学習を学ぶために整備された仮想環境を学生であれば無料で利用できるのです。
これってすごいインパクトありますよ。
初学者が学習内容に沿った学習環境を自力で構築するのはほぼ無理ですし、大学みたいなところでも、新しい技術であるクラウドや機械学習についての勉強のために同一の環境を規模数関係なしで用意するのは実質不可能です。
あと、教歴のない方には想像し難いかもしれませんが、この手のシステム環境と学習コンテンツがあれば「学校」になる訳でありません。
「学校」に必要なものの一つとして、「何をどの順番で、どれくらいの時間を掛けて学ぶのか」という、いわゆるラーニングパスも用意しないといけないのですが、こちらもある程度用意されておりました。
大変魅力的な教材であったので、自分の研究室の後期のフォーマルな授業(単位を出せる)として学部3年生を中心に受講して貰うことにしました。フォーマルな授業なので、念の為、おおよそのゴール設定もこちらで定めました。
クラウドの学習については、以下のようなラーニングパスとしました。これをおおよそ7週間程度で学習して貰いました。(注:当初「機械学習の方は内緒」としましたが、リクエストがあったので、開示します。あまり深く考えたわけではないですが、ご参考までにどうぞ。)
1. Azure の基礎
2. Azure Logic Apps でデータとアプリを統合するための自動化されたワークフローを構築する
3. Azure でコンテナーを管理する
4. Azure アカウントの作成
5. ネットワーク セキュリティ グループとサービス エンドポイントを使うことで Azure リソースへのアクセスをセキュリティで保護し、分離する
6. Azure Data Box ファミリを使用して大量のデータをクラウドに移動する
7. Azure Logic Apps の概要
8. Azure API Management でAPI を保護する
9. カスタム コネクタを使用して Logic Apps ワークフローから API を呼び出す
10. アプリの一時的なエラーを処理する
11. Azure Functions とSignalR Service を使って、Web アプリケーションの自動更新を有効にする
12. Azure Container Instances でDocker コンテナーを実行する
13. Docker を使用してコンテナー化されたWeb アプリケーションを構築する
14. Azure Kubernetes Service の概要
15. Azure App Service を使ってコンテナー化されたWeb アプリをデプロイして実行する
16. Azure Application Gateway を使用してネットワークトラフィックをエンドツーエンドで暗号化する
17. Azure API Management でAPI の認証を制御する
以下は、AI関連のラーニングパスです。こちらもおおよそ7、8週間程度で学習して貰いました。対象学生は、プログラミングの経験はすでに2年以上ありましたが、統合環境での開発などになれていないことや、(アルゴリズムを実装する経験あったが)大きめのデータを処理するような経験がなかったので、かなり初歩的な内容からスタートしております。
1. Azure のデータ サイエンス サービスを使用した AI ソリューション開発の方法
2. Python と Azure Notebooks での機械学習の概要
3. Azure Machine Learning service を使用した AI ソリューションの構築
4. Azure Cognitive Speech Services を使用し、音声を処理して翻訳する
5. Azure でのデータ サイエンスの概要
6. Azure Notebooks を使用して気候データを分析する
7. Azure Machine Learning service を使用したローカル ML モデルのトレーニング
8. AI-ready な文化を築く重要性を理解する
9. AI 戦略を定義して医療分野でビジネスの価値を生み出す
10. AI 戦略を定義して金融サービスでビジネスの価値を生み出す
11. Azure Cognitive Speech Services を使用して音声をリアルタイムに翻訳する
授業の実施形態としては、学生が自宅などで学習し、週一の授業の時間で、学習した内容についてを発表して貰う形としました(図1 は、その発表の様子です、本文自体は別の内容なっていますが)
同業の方達へのご参考になるかは不明ですが、メモとして感想を残しておきます。今回の試みは研究室に配属された学生が、作業をほぼ自宅など授業以外の時間で行っています。また、彼らはよりアドバストな内容をやっている先輩達がいる環境下にありました。よって、通常の「演習」とか「実習」で実施しようとすると、授業時間にもよりますが、(教員がアシスト介在する必要はないというメリットは大きいのですが)半期の単一の授業にしては盛り沢山だと思います。よって、授業のラーニングパスとしては、クラウドとAIは別々の実習で進めるのが良いと思います。
まとめ
この手の提灯記事!?の場合、最後に「とっても素晴らしい」と絶賛するのがお作法なのでしょうが、結論は、研究室の学生たちが大学院へ進学しそこでどれほどまでにパフォーマンスを発揮するのか、社会に出てどれくらい活躍できるのかが分かるまで、絶賛の言葉は取っておきたいと思います。
しかし、受講した学生からは、翻訳は別として、かなり好評だったと思います。
あと、今回のUPプログラムを締結したからだと思いますが、担当者の方に、学生たちの進捗を確認するアプリ(図2)も「こんなの(進捗を確認するアプリ)ないの?」と聞いたら数日で用意して貰いました。
これは、教員としても助かりました。
補足
そして、昨日(2020年1月16日)、UPプログラムの特典として、日本MS社さんからエバンジェリストの畠山さん(と開発者リレーション担当安田さん)に明治大学生田キャンパスにお越し頂き、機械学習の現況や、深層学習関連のAzureの機能、AI倫理の事例などの話を頂きました(図3)。
短い時間でしたが、大変有益な情報をたくさん頂けました。ありがとうございました!!
日本の大学の学生のほとんどは日の丸企業に入るので、日の丸企業さんにも大学へのこの種のサポートをぜひ期待したいところです。
2020/01/17
2020/03/09 加筆修正:AI関連のラーニングパスなどを追記
p.s.
AIエコシステムの実践:道半ば編もご笑覧ください。